Faculty

数値宇宙論研究室

助教

平松 尚志Takashi Hiramatsu

研究者情報

背景重力波・宇宙マイクロ波背景放射で探る極初期宇宙の世界

私たちが住むこの宇宙は、ビッグバンの直前に「インフレーション」と呼ばれる急激な膨張によって始まったと考えられています。このインフレーションは、「インフラトン」と呼ばれる特殊なスカラー場によって引き起こされたとされており、その時代の宇宙のサイズは原子よりもはるかに小さく、時空そのものが量子的に揺らいでいました。 この量子揺らぎは、宇宙にわずかな重力場の揺らぎを生み出し、やがて物質や光子の分布のムラへと発展しました。こうしたムラは、銀河や銀河団といった構造の種となったほか、現在 2.7K の黒体輻射として観測されている「宇宙マイクロ波背景放射(CMB)」に、ごく微弱な非等方性を残しました。CMBを精密に観測することで、初期宇宙の状態について多くの手がかりが得られています。
さらに、量子揺らぎには「重力波」という成分も含まれています。重力波とは、アインシュタインの一般相対性理論によって予言される、時空の歪みが波となって伝わる現象です。インフレーションによって生成された背景重力波は、宇宙の歴史の中で最も古い重力波だと考えられており、その痕跡を観測・解析することで、宇宙誕生直後の姿に迫ることが期待されています。
本研究室では、さまざまな重力理論や素粒子理論の模型に基づいて、CMBや背景重力波の理論的予言を行い、宇宙の起源に迫る研究を進めています。具体的には、場の理論的シミュレーションに基づく重力波の計算、光子のボルツマン方程式を数値的に解くことで得られるCMB非等方性の予測、そしてマルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)によるパラメータ推定など、数値シミュレーションを駆使した解析を行っています。
CMBや背景重力波を手がかりに、極限状態にあった初期宇宙の謎に迫るとともに、現代の加速器では到達できない超高エネルギーの物理を理論的に探究する――それが本研究室の目指すテーマです。

図1 宇宙の進化
(credit: https://wmap.gsfc.nasa.gov)

図2 宇宙マイクロ背景放射
(credit: https://sci.esa.int)

図3 初期宇宙における宇宙紐シミュレーション例

所属学会

日本物理学会
理論天文学宇宙物理学懇談会

主な研究業績

[1] Takashi Hiramatsu, Marc Lilley, Daisuke Yamauchi, J.Cosmol.Astropart.Phys.06 (2024) 030
[2] Ricardo Z. Ferreira, Silvia Gasparotto, Takashi Hiramatsu, Ippei Obata, Oriol Pujolas, J.Cosmol.Astropart.Phys.05 (2024) 066
[3] Takashi Hiramatsu, Evangelos I. Sfakianakis, Masahide Yamaguchi, J. High Energy Phys. 2021 (2021) 21
[4] Takashi Hiramatsu, Daisuke Yamauchi, Phys. Rev. D102 (2020) 083525
[5] Jeff A. Dror, Takashi Hiramatsu, Kazunori Kohri, Hitoshi Murayama, Graham White, Phys. Rev. Lett. 124 (2020) 041804

CSTサイエンスアカデミー